夜を溜める/塔野夏子
 
わたしはわたしの中に
夜を溜める
そしてその夜を醸してゆく
深くなるように
やわらかくなるように

わたしはわたしの身体に
花を鳥を
風を月を沁みこませる
わたしの中の夜が
やさしくなるように
豊かになるように

長い旅路の果てに
あなたがわたしのもとへ
辿り着いたならば
わたしはわたしの中の夜を
汲み出そう
そしてあなたに注ぎかけよう

あなたがこの上なく心地よい眠りを
心ゆくまで深々と眠れるように
此の世の傷を痛みをすべて忘れて

美しいかぎりの夢をみて
水晶の岸辺にうちあげられるような
しずかな目ざめを
迎えられるように




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