榎の葉っぱ/yo-yo
いつからだろう
背中に川が流れている
岸辺には
大きな榎の木がある
その川には
エノハという美しい魚が棲んでいた
むかし
榎の葉っぱが魚に変身するのを
おじいさんは見たという
退屈な日々のあけくれ
水を裂いて銀色の魚体がさっとよぎる
歓喜にふるえたのは
透明なナイロンテグスだったか
それとも少年の指だったか
掌にのこる
小判のような葉っぱをもとめて
瀬から瀬へ
エノハの水にいくども溺れた
私には鰓がないのだった
その川のそばで
母はひたすら眠りつづけている
夢の中で帰っていくのは
とっくに廃屋となった昔の家らしい
まだら模様の記憶の道を
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