マザコン/HAL
 
小3の時お袋が内職の金で
買ってくれた少年向きの一冊の本
読み始めたら辞められなくなった本

高校性になってからそれが
コーネル・ウールリッチの
《黒衣の花嫁》だと知る

お袋は僕のいまの同じ歳になって
スキルス性胃癌で逝ってしまったけれど
読書の愉しさを教えてくれたのはお袋だった

その恩返しのつもりじゃなかったけれど
病院の待合室の長椅子から事務所へと通う3ヵ月
たまに自宅へ帰ってシャワーを浴び服を着替える

全然 苦痛でも何でもなかった
病院の待合室の固い長椅子で眠る毎日
でも お袋に僕は生まれて初めて嘘をついた

癌じゃないわよねとの問いに僕は笑いな
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