頑張れオッサン!/HAL
或る深夜観たいものがある訣でもないのにTVを点けた
想わず眼を見張ったそこには見慣れた歩行器を必死に
掴もうとするいつかのぼくがいた
もちろんそれはぼくではなかった
ぼくと同じ脳梗塞で倒れた65歳の男のリハビリの姿だった
ただ彼は右半身の麻痺でありぼくは左半身の麻痺だけの違いだった
彼は歩行器のバーをいうことの利かない右手で握ろうとしていた
彼は泣いていたその気持ちは痛い程ぼくには分かった
情けないんだ悔しいんだ死ぬ程恥ずかしいんだ
幼いこどもだってできることが自分にはできない
ぼくにはきっと病院のベッドで眼を醒ました時からの様子が
ひとつひとつすべてが想像できた
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