殺意の夏/平瀬たかのり
 
 駅裏路地の喫茶店 
 奥の席でわたしが
 そっと開く小さなノート

 八月昼下り
 お店の外、炎天下
 陽炎がゆら、ゆらり
 でもここは
 寒すぎない冷房
 照明は月明かりの夜みたい
 オルゴールのモーツァルト
 髭のマスターは無口で
 ウェイトレスはかわいくちょこんと
 ああ お休みのわたしは
 わたしだけの時間をたゆたう

 天気予報は夕方にひと雨
 それまではここにいよう
 きっと涼しくなった街を
 買ったばかりの傘をさして帰ろう

 静かにカップを持ち上げれば
 柔らかな香ばしさが
 鼻をくすぐって
 大好きなブルマンをひとくち
 それか
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