八重の優しさ/夏美かをる
 
まくって
履かせてもらったズボンを少しずり下ろし、
鮮やかな黄緑色のパンツを自慢げに見せてくれた

「よかったね」
光の腕を精一杯伸ばして
後ろから娘をそっと抱き締めていた太陽が
その瞬間ギュッと力を込めて
娘の輪郭を滲ませたので
私はそれ以上何も言えなくなった




桜の木をめがけて 娘と妹が駆け出す
花陰で子猫のようにじゃれ合う二人を見て
「ああ、写真を撮らなければ」とひらめき、
私はカメラを取りに行く

ポーズをとらせたら
気まぐれな春風が急降下してきて
花びらを一斉に吹き飛ばす

はら はら はら はら
薄紅色のハートが
娘の上に舞い落ちて来る

はら はら はら はら
二人の先生が娘に注いでくれた
たおやかでやわらかい優しさが
娘のおかっぱ頭に 
妹の腕にしっかり抱えられている肩に
ピースサインの指の間に
幾つも幾つも
舞い落ちて来ている
惜しみなく 舞い落ちて来ている
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