帰る(五月雨降られ): 2013/AB(なかほど)
 
には
そのあかぬけた標準語に
浅い嫉妬のようなものもあったが
もうそんな言葉も
聞く事はないのだろうと思いながら
千鳥町の駅で降りた
いつもの旅館で素泊まりを頼むが
いつもと違って
テレビも点けずに
窓を少し開ける
自転車の音
子供の帰る声
シャッターを閉める音
客の出入りを検知するチャイムの音
葉ずれの音
踏み切りの音
雨の音はまだ聞こえず
いつもは待ち望んでいた
月が見え始めるから
まだ僕は
窓の外の音に耳を澄ませている
ようやく
雲がかかり始めた月を見ながら
君の
よっぽど いいよ
という声を
また思いだしている
ざわっとひと風ふいた

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