儀式1 喪失/イナエ
 
に残る

夜がはじまる 
痛みが老人の全身を襲う
顔が引きつり 喉が苦痛を訴える 
医師は痛みを止める液を身体に送りこむ
が…

呼吸の度に 声帯を擦る悲鳴が病室を震わせる
彼は 老人に呼びかける 
だが 見開いた目は遥かな宙を見つめ 
規則的な悲鳴は 乱れることはなかった
医師は言う
「死がはじまりました もう苦痛は感じないでしょう」

苦痛のような悲鳴は  
逃げ出る生命を呼んでいるのか 
悲鳴は
真夜中を過ぎても
病室を抜けだし廊下を走る 

彼は声を追って廊下に出た
待合室の見知らぬ人たちが見つめる
彼は首を振る
が 不意に明るいこえが出る
「声のする間は生きていますから」
その瞬間彼の中の老人は死んだ


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