/鯉
のハム、取り置かれた箸、それだけを握り締めてぼくは待ち続ける。ドロップダイアモンド、カテドラル、弦が一本だけになったギター、チェンバロを弾きながら牛乳を飲むあの子、喉元まで達した青色の星、それらを引き連れることを忘れて。そうしたらもうすぐ黒い大人の顔が見えなくなる。それよりも大きな大人のおでましだ。雑談する銃器、裁判官のハンカチ、交差したビル、それがやつらを殺していく。反復して膨張して縮んだと思ったらまた横に広がって縦になりたがる心の作用、彼が残していった夢診断の本、こぼしたコーヒーの模様、それがやつらを殺し続けていく。墨汁を溶かしたようにやがて。
灯は寄り合うように点り出している。電車の光がぼくの背中を過ぎる。蜻蛉の影が伸びてぼくに届くと、時間は急に激しくなる。
戻る 編 削 Point(1)