ジャポネーゼ・マンドラゴラ。/元親 ミッド
 


本来は、さくらは白い花なんだけど

死体の血を吸うから、ほんのりさくら色に色づくんだって。



その証拠に、さくらの幹が傷ついてしまったら

人の血の様な樹液がでるんだって。

だからさくらは手折ってはいけないよ。

間違っても、手折ってはいけないよ。

手折れば、死者が悲鳴をあげるんだよって。



彼女があのさくらの下にいるのを僕はまだおぼえてる。

暗い土の中でさくらの根が、キミの白い裸体に根を這わせ、

絡まって、吸って、かじり、舐めまわして、挿入し、

その体から血の気を奪って、

毎年、彼女を限りなく白い骨にしてしまうんだ。



そうしてあの蕾を膨らませてる。

初々しいさくら色したあの蕾をね。



もうすぐ桜は咲くんだろう。

美しい色で、あの青空を覆うだろう。

僕は耐えられるだろうか。

彼女の声を聞きたくなって

あの桜の幹を手折ってはしまわないだろうか。

ふと、そんな不安が胸をよぎる。



桜の開花宣言は、僕にとっては警報に他ならないのだ。
戻る   Point(6)