ギター弾きの想い人/まーつん
 
路樹が枝を叩いて 手拍子をとり
  明かりの灯った家々が
  リズムに合わせて壁を揺らす

  そう音楽は
  悲しみを喜びに変える
  魔法だ

  月の凍える夜に
  春の日差しを思い出させる
  世界でいちばん古くから伝わる
  型のない呪文だ


  だから
  お前以外に
  女なんて要るものか

  強がりじゃないぜ
  わが愛しのテレキャスターよ
  年ふりたお前の トネリコの身体
  その括れを なぞるだけで

  物欲しげに口を開けた
  アンプのジャックに
  シールドを挿しこむだけで

  俺の欲情は満たされる

  お前の漏らす喘ぎ声に
  今夜も星は身悶える

  お前を抱いてもぐりこめば
  独りきりの寝床も 寒くはない

  そう決して

  寒くなんて あるものか

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