眠り姫の薔薇/梅昆布茶
しどけない午睡から醒めやらぬ眠り姫は
一人寝の孤舟の岸辺で戦の終わる日を待ち続けて
夕陽をぼんやりと眺めていた
眺望のよい塔のうえに幽閉された魂は自分の捕虜としての価値も知らずに
幼い時にいつも夢見た童話を思いかえしていた
幸福な王子と王女の話だ
もうフランス革命の足音が聞こえていた
もう人質としての婚姻の時代ではないのだが
眠り姫の母国は国の敵であったのだ
塔は高く風が吹き渡る原野を見渡すことができたが
かのじょの見ているものは風の匂いだった
風は歴史や国を孕んで人を翻弄するだろう
すでに彼女の涙は乾いたがそれも風の優しさかもしれない
薔薇の庭
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