ハンカチ一枚/カンチェルスキス
いった。
そうされることをずっと望んでいたみたいだった。
自分の体を舐めだした。ときどき彼の顔を見上げた。
彼が指を差し出すと母猫の乳を吸うみたいに
吸いついてきた。
しばらくそっとしておいた。
雨はやみかけていた。
肌寒い夜だった。
会社帰りの自転車の男が何度か通り過ぎた。
黒猫の体はまだ小刻みに震えていた。
彼は立ち上がって、黒猫を植込みに戻した。
タオル地の水色のハンカチを黒猫の足元に敷いてやった。
黒猫はそこにちゃんとおさまった。
何も言わず、前足をそろえて、彼を見上げる。
彼は歩き去った。
それが彼にできる精一杯のことだった。
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