小さな音だけがはっきりと聞こえている/ホロウ・シカエルボク
かった
暗い影が浴室の高い窓の向こう側からこちらを窺っていた、まともな人間には決して立つことが出来ないような窓の向こうから
たとえばあいつを呼びこんで身体を綺麗に洗ってくれるよう頼んだら
おれは人生を失って浴槽に浮かぶだろうか
身震いしたけどそんな考えは余興に過ぎなかった
もしかしたら血かもしれない温かい水で全てを洗い流した、沈み込んだ浴槽からは秘密にされた時間の臭いがした、血のように温まってゆく身体、血のように…
生きもののすべては裸なのだろうか、と
真夜中の浴室にたちこめる湯気の中にそれだけを書いた
生きる術がもうないというなら
生きることなど考えずに生きりゃあいい
すべてを賭けたつもりでもどこか妥協があるように
すべてなくしたはずの時でもどこかに余りがあるものさ
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