象/月形半分子
のようだった
まるで聖者が町にやって来たかのように
優しい目をした象さんが人間を見ていた
私が象さんを見れたのその一瞬だけだった
後は沢山の大人にはじかれて、何も見えなくなった。妹は泣いた。
象さんの優しい目はきっと私たちを見なかっただろう
酔っ払いが子供を力づくで追いやるのを見たことだろう
優しい父親が我が子を肩車しながら、見ず知らずの子供二人を足で蹴飛ばすのを見たことだろう
1960年代、優しい目をしていたのは一頭の象だけだった
唯一それを知っていたのは私と泥道だけだったが
簡素なコンクリートに覆われていくうちに、いつの間にか泥道は、動物園と一緒に消えてしまった。
大人になって、もう誰にも追い払われたりしない私は、大きな街に住み、大きな動物園にも行った。大きな動物園には空でもないのにオジロワシがいて、私を驚かせた。
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