母なき子を抱く/川上凌
 



離れないのです

鼓膜から脳の髄まで焼き付いて

離れないのです

母無き子の嘆く声


消えないのです

あの小さな幼子の

必死でわたしの袖を手繰る感覚が

消えないのです

母無き子の五本指


日本の裏側に或るとはいえ

子はやはり子なのです

その眼にしかとわたしを映して

ぎゅ、ととらえて離さない


罪などなにも無いのです

ただ そのちいさな生命(いのち)を

朱(あか)く燃やしているだけなのです

そして大人の諍(いさか)い それすらも

その眼にしかと焼きつけるのです


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