ファンタスマゴリア(たむらしげるの絵本)によせて/梅昆布茶
 
沈黙の惑星は
能弁なのかもしれない

その星の水際にはとりどりの
言葉の端くれが堆積しているという

それを採集することが
盲目の考古学者たちの日々の務めなのだという

中央の大陸には
累積した悲しみの伽藍があって
それを測定する器械が設置されているが
その統計が何処へ報告されるのかを
僕は知らない

その星には母性局があって
つねに母が母であるための放送を流している

或いは病んだ父のためのカプセルが無数にあって
常にそれは満杯らしいのだが

子供たちは水溜りに映った影たちと遊び戯れて
飽きることをしらない

街には無数のベクトルが交差し
それぞれの方向をめざしながら
微熱をともなった電磁音を発信し続けて
空気はそれによって満たされている

野外に設置された巨大な幻燈機は
様々なニュースや恋愛物や喜劇や活劇も放映するのだが

ちいさな快楽や愉悦とともに
本当はこの世界そのものを
投影しているのかもしれないのだ



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