蒼い思考 デッサン/前田ふむふむ
その感触を忘れないことが
わたしの役割でもあるようだった
その塔のうえには
無謬性のひかりの場所があって
一本のハクモクレンが
咲いているのだ
わたしは夢中になって
そのことを父に話したが
父は黙って壁のように立っていた
父は家族が買いそろえた
白い羽毛ふとんのなかで
夏を待たずに死んだ
大きなあじさいの絵がかかった部屋には
羽毛ふとんがない以外に
何も変わっていない
たびたび その部屋にある
漆塗りの仏壇に線香をあげると
父がすぐうしろに座っている感覚が
からだ一面にひろがり
ほそい芯で灯っている胸に
父の視線が突き刺さってくる
夕暮れのような
[次のページ]
戻る 編 削 Point(6)