遠ざかる/百瀬朝子
崩さないように
崩さないように
慎重だったのに
背負ってきた荷物
預けすぎた
コインロッカーはどこ
錆びついた小さな鍵だけ
握りしめる感覚だけ
この両手首だけは
薄くなった皮で
つながっている
この世界と私を繋ぐ距離
世界は私に近づいた
ずっと届かない居場所だった
今はその中心にいる
地に足がついている
視界はもう歪んだりしない
なんのため
誰かのため
さよならとお久しぶりを繰り返す
お互いを確かめるため
新しくなる
生まれ変わるなんてない
今日の私は昨日の私
踏みしめる
アスファルトの
濡れた濃い色
雨の匂い
朝がくる
遠ざかる
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