祝福/紅月
は燃えてなどいないのだから)
波のみぎわには誰もいない
誰もいないことを告げる誰もが
亡霊と呼ばれ透き通ってゆく
乱立する樹氷、
*
亡霊が亡霊をはこぶ
ほとりの葬列のさなかで
母が波間へと投げいれたあおい彼岸花は
狭い霊安室のなかで狭まり
または拡散しいつまでも反響する
もうなにもいわなくていい
ながく滴る小夜の白昼に
投げこまれたあおい波がうねり
いただきの恍惚を食らう紙魚の
垂れながすあかい果汁がうねり
あわいの紫雲に隠蔽されるようにして
ふかく眠りつづける亡霊の系譜(林檎の樹)
ここにはいないのだから
充ちてゆく腕
小舟を葉脈に浮かべる
枝分かれする林檎の樹々を指折り数えては
幹に記された御名を呑む紙魚から
漏れる末梢のしじまをたどって
葬列に新たな亡霊がくわわる
母のながいまどろみの底で
まどろみの底で
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