活きた魚の眼/佐々木青
身に弾力があって
魚はとてもおいしく
それはほんとうに
いまこの瞬間まで生きていたものの味だった
となりで弟がこんなことを言う
「食べたものが僕たちの身体になってるんだって、
この魚が僕たちの指になったり、
内臓になったり、
全身に隈なく行きわたって、
ほんとうの意味で僕たちの身になるんだ」
一匹の魚を食べることが
また少し僕たちを大人にする
そうでなければ
子供にしたのかもしれない
食べているあいだ
魚はずっとビクビクとしていたが
食事をすませた僕たちが
「ごちそうさまでした」と言うころ
魚はもう動かなくなっていた
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