原風景/もっぷ
原風景は黄金に実った稲穂が
風に揺れて波立つというものだった
背丈のままの記憶のままに
そのことを思い出したのは
ずいぶんと移ろったのちのことで
恋しがってもすでにそれがどこで
のことだったのか
ただただ脳裏に焼きついているだけの
いつかの晩の夢だったのかもしれない
それでも手招きをやめないその風景は
それは
唯一の
帰ることのできる場所のように
少女には思えたのだった
二度と
その場に在ることができないことも
少女をかなしませた
背丈の伸びは決して逆行することがないから
もう
戻れない
(もしも本当に原風景であったならば
も
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