銀塩写真/そらの珊瑚
 
け入れるしかない子供なりのけじめだったのかもしれない)と遊ぼうと駆けていったあとも、今しがた絞ったばかりの山羊の乳の入ったほのあたたかいコップを手にして、立ち去るのが惜しいものでもあるかのように、ほんの少し陶酔気味にしばらくその匂いを嗅ぎ続けているうちに、ぼやけた真実というものがいくらか焦点が合っていき、明日が来るのかななどと考えていた。

実はあの匂いは羊水のそれによく似ている
胎児は
百倍に薄められた酢酸に
漂う一枚のネガフィルムが
立体現像されたに過ぎぬ


ドクターと呼ばれる種類の

もまた知らず知らずのうちに
毒に蝕まれていて
そのせいか複眼となっていたため
シャッターを押すまで
長いこと
カメラのあちらこちらを操作して
思い悩んでいるうち
もう写すべき被写体自体が
風化の末に粒子になってしまったことに

ようやく気づいたのだった
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