Don't Know Why/木屋 亞万
たのしみが待っているとわかっていても
踏み出していけない日がある
自分でもどうしてかわからない
陽気で華やかで美味しいものがあるのはわかっていても
足が向かない
敵意や悪意があるわけじゃない
ただ楽しいだけ
たくさんの人と笑顔で時を過ごすだけ
日が暮れた街に電灯が眩しい
葡萄が染み出したワインの滑らかな色
夜を膨張させる果実の匂いも
口に含めば幻想と気付く
頬が紅潮し鼓動が走り始めても
碇のように沈んでいく気持ち
海を見に行きたい
光の届かない砂浜で
ずっと波の音を聞いていたい
バイクの音もクラクションも聞こえないような
遠い遠い海で乾いた潮の香りを
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