ピエタ/紅月
 

彼岸、という名のみぎわで、という名のeddaで、という名の腕、腕
を伸ばす、かつてあなたが小指をくぐらせたであろう銀の指輪はす
なわち「ゆぐどらしる」の髪束で、人であったころ、わたしはあな
たのうなじに手をかけた、白線を引けばそこからうみのはじまり、
便宜上父と名付けられたあわい紅珊瑚が海底を埋めつくしている、
鱗をもつ父は鏡台で口紅を塗り、鱗をもつ父はまいにち早朝になる
と死ぬ、夜になっても死ぬ、何度も小指を繋いでは、そのたびにわ
たしは、(礼拝堂で祈る献身的な、)いっぽんの大樹が根をおろし
ている、「ゆぐどらしる」が身を震わすたび、まるで焦点の合って
いないぼやけた視界のな
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