帽子の男/群亜藍
今日も 通勤電車に轢かれようとする人間がいる
体が線路に放たれる 駅員は走る 苛立つ通勤客
そして 死者と生者の不和に何も出来ず 呆然とする私がいる
帽子の男はその傍で 薄ら笑いを浮かべている
黒いソフト帽を目深に被り いつもコートに身を包む男
都市に雨が降る
乾いたアスファルトが真っ黒く染まっていき
下水に向かって川ができる
しかし何も流れていかない
都市の悲しみは ずぶ濡れのまま道端にうち遣られる
晴れ上がった青空には 薄く浮かんだ昼間の月
遠くで いびつで 今にも消えそうでありながら
あれこそ私が本来生まれるべき星なのだ と
思う瞬間 帽子の男はささやく
「残念、あなたはまったくもって地球人ですよ」
今日も帽子の男は いつの間にか傍に現れて
悲しみに酔いしれる私を冷静にする でも
草花を踏みつけているような気分になって
私は帽子の男に 話しかけようとする
「本当に私は地球人なのですか」
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