盆の即興演奏/風呂奴
 
散乱する怠惰の跡は
脱ぎ捨てられたサンダルのように
乱雑に転がっていた

夕食前には
先祖を拝む
亡霊には顔がなく
座敷はすでに
死人のような口ぶりだった
蛍光灯だけが
無機質な音をくり返し、
僕がいつか
この座敷のように
沈黙を語る日、
一体誰が、この部屋の灯りを
消してゆくのか

僕には、祖母の顔しか思い出せない

今頃
都会のハイウェイでは
ふるさとの数だけ
渋滞の距離がのびているらしい
線香をあげる単純な静けさに
亡霊でさえ帰省する盆を
疑いたくもなった
一筋の霊感もない
ありふれた個人が
昇らない言霊の飛翔を願い
なんとなく合掌している

いたるところで。

死と詩の狭間で
蛍光灯を消せば
神棚に置かれた
西瓜のような静寂につつまれて、
盆は止んだ。
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