イカロスの墜落/梅昆布茶
 
のアイロニーの眼差しにも思えるのだ

地中海の豊穣な陽光の中に繰り広げられるつづれ織りのアリアドネーとテセウスの恋
獣人ミノタウロスと暗黒の迷宮そして窮地を脱出する軽やかなイカロスの飛翔
どう考えても彼の「雪の中の狩人」の絵画世界とはひとつにはなりがたいが

若き日よく聴いていたラルフ・タウナーの「イカルス」のアコースティックで
透明な旋律がながれる僕の頭の中で農民や羊飼いや船乗りたちがじぶんたちの日常を
つつがなくすすめてゆくというイカロスの悲劇とささいな生活たちのしずかな共存との対照がある美しさをかもしだして
あんがいそれがこの世界の実態ではないかという気がしてくるのである

イカロスが何度墜落しようと
振り向く人間は誰一人いないのだろう
その叫び声はうみの藻屑と消えてゆく

おだやかな地中海だけがなにもなっかったかのように
悠久をたたえて陽に照り映えているだけなのかもしれない



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