「苺畑の悪魔」/桐ヶ谷忍
 
も現在の私には)、
破片のひとつに映っているアレを見る。

苺畑の悪魔。

黒い悪魔が、猫のように細い瞳孔で、時折こちらをチラリと見る。
そして尚いっそう楽しげに笑う。



真っ赤に熟れた数多の苺をなんのためらいもなく踏み潰す。
踏み潰されたそれですら口に含んで腹を満たしたい餓鬼。
だが餓鬼はどれだけその甘い苺を喰っても満たされない。
満たされないと知りながら貪り続けるか、黒い悪魔の服のすそを
掴んでみるか。

君ならどちらを選ぶ。

ああ、いい。いい、いい、結構だ。
君がどちらを選ぼうと何の参考にもなりゃしない。
君が私と同じ餓鬼かどうか私は知らないのだから。




黒と赤の破片から目を逸らす。
まだ「その時」じゃない。
とりあえず今の私は、これまでの人生で一番幸せな日々を送っているのだ。
だからその時じゃない。

それでも悪魔は笑いながら苺を踏み潰し続けるだろう。


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