キズという名の獣/水町綜助
ートのポケットに入れた手には
なにか固いものしか
当たらない
少し歩き
猫のやわらかい耳を
手の平で寝かし
包むように頭をなでて
背中の毛をゆびで
かき分けて
そのほか無数にある傷を
見て
なにができるだろう
癒着した
赤い
まだ血のこびりつく
薄膜を張ってはまたひらく
そして鳴き声
ただ白いところだけをなでて
できるだけこのコートの中で
あたたかくして手を
肌を柔らかく
そして撫でても
猫はくすぐったそうに逃げるのだ
その行き先のように
季節は春へ向かっていく
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