傘のない街/千波 一也
街は
かわらず
急ぎ足だから
にわか雨にも動じない
チラ、と
暗く続いた空をみて
街は
かわらず
明かりを灯しはじめる
明かりは
誰のためか、と
問われたならば
しばしの思案のあとで
誰もがさびしく
答えるだろう
バス停に濡れる
少女のための
傘は
どこにも
見つからない
待ち人のない
老婆のための
傘は
どこにも
見つからない
街を
わたる人たちの
行き先などを
街は
いちいち
気に掛けない
向かう人にも
帰る人にも
街は
街であるほかの
すべを持たない
夢に
たじろぐ少年を
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