感覚記憶/salco
母親のようににっこり笑いかけ
広げた両手を掴ませて起こす人
ルーティーンワークの先に倦んだ目で
むっつりと即物的に扱う人もいる
どちらにも劣等感で苛まれた
自分の親にそんな事もできない
この先の不在さえ信じられず
ベッドの傍らで
する事もなく半日座っていた
閉めたサッシの外では
ゴルフ練習場のネットが強風にうねり
嵐に浮き立つ海草のようだのに
カシャーン、カシャーン
パタパタパタパタ…
大気の湿度のせいか
風の唸りが滲んで
遠くの音がよく聞こえた
効き過ぎた暖房と彼方の長閑に
我慢もせず眠ってしまった
母はまだそこにいてくれて
寝息を立てている
睡眠共有の錯覚でもあったか
それが現実逃避の方便だったのか
スツールをテレビ台に寄せて凭れ
全く呑気なものだった
別れの室に入れられて
時を惜しむ、その方法がわからなかった
その無効も知らなかった
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