生者の行進/山中 烏流
 
関の蕾はまだ開かない
彼女はそれをすみれだと信じたまま死んだ
ついさっきのことだった

小さな鉢植えにも似た、この狭苦しい部屋で
遂に咲くことを諦めた彼女は
新しいティーバッグに手をかけてしまった

玄関の蕾は、まだ開かない


蕎麦殻の枕に染み付いた涎の匂いがこだまする
その空気に寄り添うように生きた彼女は
愛されたい、ということを
終ぞ愛していた

冷蔵庫に鎮座する、数年前のジャムを掬う笑みのために
靴下を履いた彼女は
ありふれたものばかりを手招いた

花火のような呼吸ができたら、いいのに

よく似合う花柄のスカートを翻して
彼女は大袈裟にカーテンを開ける



迎えに来た木曜日の手をとって、踊り出した彼女の
その背を見ていた


ずっと、ずっと見ていた









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