生者の行進/山中 烏流
関の蕾はまだ開かない
彼女はそれをすみれだと信じたまま死んだ
ついさっきのことだった
小さな鉢植えにも似た、この狭苦しい部屋で
遂に咲くことを諦めた彼女は
新しいティーバッグに手をかけてしまった
玄関の蕾は、まだ開かない
蕎麦殻の枕に染み付いた涎の匂いがこだまする
その空気に寄り添うように生きた彼女は
愛されたい、ということを
終ぞ愛していた
冷蔵庫に鎮座する、数年前のジャムを掬う笑みのために
靴下を履いた彼女は
ありふれたものばかりを手招いた
花火のような呼吸ができたら、いいのに
よく似合う花柄のスカートを翻して
彼女は大袈裟にカーテンを開ける
迎えに来た木曜日の手をとって、踊り出した彼女の
その背を見ていた
ずっと、ずっと見ていた
戻る 編 削 Point(5)