雌豚/プテラノドン
ていたならば、
先にその場を離れたのは僕だ。今となっては
そんなことは言っていられない。
グラス、香水、ドレス―大人になった彼女を
ガタイのいい連中が冷やかしの目で見ている。
暗がりのフロアでひときわ大きな声が挙がる。
「海物語って知ってる?マリンちゃんは?」
昼間に電話を受けて自転車で一人、パチンコ屋で
暴れている祖母を迎えに行った彼女は
どんなに驚いたことだろう?
店員に羽交い絞めにされながらパチンコ台を杖で叩く
祖母の姿を見て、吐き捨てた言葉を耳にして。
遺伝ではなく家族として
受け継がれた言葉を聞いた客たちは
笑い声を上げた。それから彼女は紙きれを
破くかわりに、目の前の吸殻で埋もれた灰皿を
朝まで片し続ける。僕もそう思う。
他に話すことはない。
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