蝿の恋/湾鶴
ガーゼで色粉をまぶしたような
街路樹を蝿が叫んでまわる
うるさいくらいの主張をし
羽を振りまわしても
変わらずに
妖艶な光をはなち続ける 乙女木
うつけの木には届かず
うつけの己に思えてきた 蝿
自然現象にのまれていく 蝿
秋になると コウヨウが始まるのだよ
葉は色気づいて 化粧もするし
幹はどす黒く にぶっていって サカリがつくのよ
貞操をかたくなに 守る
凍原にそなえて
今が晩旬なのよと
イロコをばらまく
こんなのは 恋じゃないのだよ 蝿
17時を知らせる鐘の音で
少し 落ちついた
夜がくるよ 蝿
もう おとなしく してくれ
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