見えない舟/塔野夏子
 
不思議
深く眠りながら
果てしなく醒めている心地
見えない舟が 横たわる僕を乗せて
透きとおる彼方へと 漂ってゆくよ

夜は青く
あえかな香りが僕を包む
この流れのほとりには 何処までも
菫の花が咲いているんだね

もう誰の声も聞こえないよ
ただ僕にひそやかに触れてゆくのは
月の囁き 海王星の吐息

僕に刻まれ
いつしか僕の一部となった傷たちさえも
ゆっくりと溶け出してゆくようさ

なつかしく還りながら
はるばると旅立ってゆく心地
見えない舟は 横たわる僕を乗せて
透きとおる彼方へと 漂ってゆくよ




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