正月の空気/木原東子
 
段暗く
ぞろぞろ森の中、善男善女

突然空が現れる
例の如きお賽銭お神酒おみくじ
末っ子は笑顔、そのあと鬱になるとは
知らない

長男はもう空にいた
彼の人生を済ませて

母は父を見送った後もまだまだ
もっと長く生き延びるとは
思わずに拍手を打つ

露店で小さな鳥を買う
人を感知してチチと鳴く


敗戦引揚げ不況好況
浅間山荘、サリン、台風、阪神と東北大震災、水素爆発
幸いにも厄災から免れて

末っ子が父となる
オトートが死ぬ
母とせめて正月を過ごそうか
老人ホームから三晩暇をもらって

驚くほどだ
赤ん坊を世話するのと同じ

こんな90歳が待っているなら
どうして生きよう
中天には昼の半月
欠けるのか満ちるのか
不明な形をして

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