人形願望/木原東子
 
か、
ありがとうと強いられるような上下関係だったのか
他人のように
いつか自然に心からありがとうと言うのが親子ではなかったのか

そんな風にYが考えた訳ではなかったが
夕子は突然遠い遠い向こう、Yはひとりでこちらにいた


長い年月が過ぎるうちに、その記憶も薄れたが
Yの心から消えることは無かった
思い出すたびに、母はあれを言うべきではなかった、と付け加えた
母の無い子のように


Yには本物のお人形ができた
長年の練習はこのためであったこと
温かい自分の子ども、共にいるだけで充足していた

それでもある日、ひとりふたりと子どもを失った
かれらはYに有り難う、と言って別れた

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