引き出し/森未
 
たいに
出来事でしかない


でもわたしは
「覚えている。」
土の匂い、足を伝わる音、にじんだ雲、誰かと歩いたスピードも、全部。

薄まっていくあの日や瞬間を
生活のはしっこに見つける
くだらないと
塗りつぶされた思い出の上で
もがくように
へたくそに笑うから
「ひと」は美しいのだと気づく

引っ張り出されたままの机の引き出し
そっとしまって
かぎはポケットにしのばせておく





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