壁画/岡部淳太郎
僕たちはどこにも行けず
どこにも連れていかれず
それでもなお立ちつくしていた
夕陽が僕たちの正面から射しこみ
背後の壁に僕たちの影を長く
ひたすら長く引き伸ばして
映し出していた
そのいくつもの暗い影の
重なりはまるで壁画のようで
あるいは僕たちの失われた心をそこに
焼きつけたかのようでもあった
こうして僕たちのうちがわは印され
僕たちが滅んだ後もなお残る
そして色のない無惨な壁画として
美しく鑑賞されいくつもの
言葉を費やされるのだ
僕たちがどこにも行けず
どこにも連れていかれず
ただ立ちつくしていた
そのことの記念のように
僕たちの影で描かれた壁画は
億年のちの新しい
僕たちの目の前に
黙示のように現れるのだ
(二〇一一年十一月)
戻る 編 削 Point(15)