二十一歳の夏/長押 新
 
母に盗られた心臓を
奪い返そうと
鋭い刃の青春を掴み
わなわなと震える声で
もう愛してください
もう愛してくださいと
猛暑日に冷たい汗を流して
泣きついている
その腕は簡単に解かれ
友人らが肩を抱く
私の代わりに涙を流しながら
もう愛さなくてよい
もう愛さなくてよいと
細すぎる指を合わせて
祈っている

チキショウ!
子供を辞めたってのに!
大人になったら
震えたりしないんじゃないのかよ

友人らが肩を抱く
私の代わりに涙を流しながら
もう愛さなくてよい
もう愛さなくてよいと
細すぎる指を合わせて
祈っている
私は便器に顔をつけて
もう酒は飲まない
もう酒は飲まないと泣いていた

(私の愛は深海に似て
水圧のために冷たくても
凍ることがなかった
便器の中で水面が揺れていた)



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