空の子ハイヒールは海に溶けぬ/ayano
ていた。もう二度と履けないけど。おとうさんの死んだ日にはじめて食べたあの、なんと言ったっけ、ああそうだ、ショートケーキみたいだね。―――あれ、向こう側が見えない。
むかしから、彼女の大切なものはすべて海に溶けてしまったけれど、きらいなものは削れ丸くなることなく居座り続けた。おとうさんのあしは見つからない、ハイヒールはそこにある。おとうさんの分だけ水が増えた、わたしの分だけ水が増えた。
大切なものは自分だけよ
おとうさんの味をようやく忘れたの
渡り鳥を沈める仕事はたのしいの
海はわたしにやさしいの
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