前奏曲/メチターチェリ
 
」に移るというのがしばらくの鑑賞スタイルになっていた

主人公が愛人に再び激しい欲情を感じてしまう場面まで読むと、目を閉じて、自らのことについて考えてみた
ぼくは主人公の気持ちになってみようとした
しかし、感じられたのは漠然とした不安と、幸福な者が不幸な者に対して抱くような仄白んだ憐みだけだった

   彼女の踊りは上手なのだろう 彼には何一つ目に入らなかった

酔いの間隔は次第に短くなってきて、ぼくはとうとう読書を投げ出した

午前十時に出発したバスは正午を過ぎて京都駅に到着した
ステップを降りたら初春の風が冷たく、ポケットに手袋を入れ損ねて来たのに気づいた
新鮮な風を身
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