夜明けを待つ/相差 遠波
忘れてしまえとある人は言う
そう念ずるたびに思い出す
忘れなくてもいいとまたある人が言う
思い出すたびにずっと涙する
ずっと心は揺らぎ続けるだろう
治らない傷は抱えていくしかない
鏡をのぞきこめば
そこには泣き濡れた女が一人居るだけ
化粧をして勝気な顔を作っても
美しかった思い出がすぐにそれを崩す
ああ でもそれが
命の証なのだろう
あなたの人生の記録なのだろう
忘れてしまえとある人は言う
そう念ずるたびに思い出す
忘れなくてもいいとまたある人が言う
思い出すたびにずっと涙する
君よ どうか
忘れてもいい
忘れなくてもいい
ただ見失わないで
鏡にその人が一緒に映ってなくても
あなたのその涙は映っている
その鏡像の向こう側に居る君の
命の証だけは失わないように
夜明けに来る光を
余さず拾う鏡の向うを
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