悲しみは泣かない/村上 和
そうと
指先で掴んで持ち上げる
誰に手紙を書くんだろう
考えて
ふと視線を上にやると
窓の外
雨の止んだ景色が見えた
視界には
棚の上に並んだ雑貨たちと
透明な硝子の窓と
模様のような水滴と
その向こうには
虹が架かりそうな青空があって
これ下さい
と私は店員さんに言う
「絶望」という字を書いてみる
我ながら上手に書けた気がする
できるだけ丁寧にゆっくりと書いた甲斐があった
「絶」という字はあまり好きではないけれど
「糸」という字と
「色」という字は好きだ
字は元々上手な方ではないけれど
小学生の頃に一度だけ
私の字が好きだと言ってくれた子がいて
今でもまだその声と
その時の表情を憶えているし
今でもまだ嬉しい
彼は今何をしてるんだろう
と
絶望を描いてみる
我ながら上手に描けた気がする
雨のち晴れ
少し肌寒い
悲しみは泣かないのだと
私はそう思う
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