指の味がしそうな塩水/ズー
 


指の味がしそうな塩水というはなしを書きはじめると、たばこ屋のシマさんが居酒屋おかるの前で足をとめる。月面にでもロシアにでも辿り着けそうな路地を、がに股で歩いているような男が、でてきて、着ているものは古本の表紙を張り合わせたように臭かった、ってつながる。
俺なんでもいいからねーと、シマさんにおかるの引き戸をあけさせて、うまいもまずいもかんけーねー、ちゃんぽんしちゃうぞって、叫ばせるけど、焼き茄子にすりおろした生姜をのせている、おかるのおばちゃんに聞こえないふりをさせて、シマさんの喉は、のん兵衛の戯言で焼けていく。
奥さんも、こどもたちも、今頃、あの男と、幸せな、そこまで書くと、シマさんは
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