「黄金虫」のいる時/麦穂の海
ていたらしい
若いあなたに
私は何となくほっとした気持ちになった
苦しい顔つきで
涙を流し
「もう十分生きた」
と言った、その言葉には
心底偽りなど無いのだと
苦しいからそう言ったのではなく
負け惜しみでもなく
今のあなたは
華やかに生きた「生」の
安らいだ燃えかすのような
状態なのだと
あなたの62年に関わる
断片を見つめて
納得する
生者の急ぎ足が
すぅっとゆるむ
日の落ちた
アパートの薄暗い階段で
こと切れたこがね虫を拾い上げ
生け垣の満天星の下に埋める
私は焦点の合わないあなたの眼を
思い出す
生者と死者のさかいの領域で
あなたと私は
今
確かにお互いを見つめている
le mardi 27 septembre 2011
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