ピンクのハートマーク/はだいろ
 
が、
そのときの傷のことが、
やたらと疼いて仕方がなかった。
でも、
結局、その子に振られたところから、
ぼくの現実は始まったのかもしれない、とも思う。
ぼくはそちら側へ行きたかったけれど、
それは幻想の出口でしかなかった。
現実を生きるのだ。
それしかないのだ。


午前中はずっと、音楽を聞きながら、
本を読んで過ごした。
ブックオフで200円で買った。
「チャイルド44」上下巻。
あまりの面白さに仰天した。
なんだか、
反逆の主人公に、
身につまされるようなところもあった。
その話をしてあげればよかったのかもしれないが、
彼女には、
難しいだろうとも思った。


7時になると、
面会時間の終了です、というアナウンスが流れる。
ぼくはちょっとホッとする。
また明日くるよ、と丸い椅子を片付ける。
すっかり痩せていくような彼女は、
力なく手を振る。
松屋に寄って部屋へ帰り、
おやすみとメールすると、
おやすみなさいと、
ハートマークが返ってくる。
ピンクの絵文字で、
返ってくる。









戻る   Point(15)