彼女らはいずれも澄み切った声をしていた/吉田ぐんじょう
 
例の皮膚屋の番号にかけてみたけれど
機械的な女性の声が
この番号は使われていない
ということをそっけなく繰り返すばかりだった



細くなりたい、
細くなりたい、と言い続けて
友人は次第にうすべったくなっていった
細くなったのではなく薄くなったのであるから
自立することが出来なくなり
ほんの束の間ふるえながら直立しても
じき足元の床にぱさっと崩れてしまう

それで彼女は人でいることを諦めたのだった

いま
友人はわたしのうちの
クローゼットに掛かっている
首にゆるく巻きつけてやって
一緒に外出すると喜ぶ
友人はもうすっかり人の言葉を忘れてしまっているが
首元で身をくねらすときの具合で
どんな気持ちでいるのかわかる
鼻をうずめると
友人特有の甘い体臭が漂って
そのにおいを嗅ぎながら
まだ人だったころの彼女の声や
教室で眺めていた背中の丸みや
手紙に並べられていた癖のある文字のかたちや
そんなことを次々と思い出した

ずいぶん遠い思い出のような気がした



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