海底バス/村上 和
 
に沈んでく
だから私もやがて
海に潜るんだろう

ねえ
ふたりの出逢いのおはなしを聞かせて
いつか眠りの前に読んでくれた絵本のように
あの頃は泣いてしまった私ももう大人になったから
暗くても怖くはないよ




1.

久しぶりに聞く電話越しの声

「お婆ちゃんが、海へ還るんだそうだ。
 お前に会いたがっているんだよ。」
「そう、じゃあ次の休みが取れたら帰るわ。」

仕事が忙しく
移動は夜間の方が都合がいい

見た事もない過去へ向かうバスに乗って
海底のような夜を走る
きっと眠れないんだろう
そして思い出すんだろう
微かに覚えている風景の片隅に
置き去りにしたままの色んなことを




0.

海面の波間にたゆたう月の光

「おばあちゃん、あしたはきっとはれるんだよ。」
「そうだね。」

他愛ない歴史がひとつ
静寂の海にゆらりゆらりと沈んでゆく

笑ってたんだろう
笑ってたんだろう
音も光もない
あなただけの深海で

海底バスの終着は
生まれる前の柔らかな眠り中で見た
夢の終わり
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